♪ 音楽とマナー

♪燕尾服姿で演奏するのは何故? 

 ところでオーケストラのコンサートでオーケストラの楽員が着る服といえば、色は黒色が決まりで男性は燕尾服かスーツ、女性はドレスあるいはパンツルックで上下黒色がほとんどです。これは19世紀初頭にできあがったスタイルだそうです。私は演奏に集中してもらうためにデザインや色を抑えているものだと思っていましたが、違っていたようです。

 18世紀の宮中で行われていたコンサートでは楽員は華やかな衣装でした。19世紀に入りコンサートが市民に開放されるようになり、その時にイギリス発祥の黒の燕尾服が流行していたこともあって、これがオーケストラの服装に流行させられたといいます。

 しかし、コンサートの種類によっては、もっと華やかな時もあります。ニュー・イヤー・コンサートでは女性楽員は華やかな色のドレスを着ますし、夏のコンサートの時には白いジャッケットを着ることもあります。

 その時々の雰囲気に合わせて、色々な種類の服装を用意しなければならないとなると、楽員も様々に頭を悩ませることになるのでしょうネ。

    関連の話になりますが、コンサートでは腕時計を外して舞台に上がるように言われた記憶があります。その理由は「コンサート会場は日常とは異なる空間であり、演奏者が腕時計をしていると、お客様に時間を気にさせてしまい現実の世界に戻してしまう恐れがあるため」や「光り物を付けているとそちらに注目され、音楽に集中してもらえなくなる」からだったと思います。今では有名交響楽団の演奏会でも腕時計をしている演奏者が居ますよね。時代は変わっているのでしょうか?それとも腕時計を外す理由はほかにあったのでしょうか?

♪演奏に対する拍手のタイミングは? 

 交響曲や協奏曲などは第1楽章から最終楽章までが一つの作品になっていますので、拍手は最終楽章が終わってからが通例(エチケット)です。そして、演奏後の余韻も音楽の醍醐味。指揮者のタクト(指揮棒)がおりるまで余韻を楽しみたいものです。

 演奏が終わるか否か我先に拍手をする人がいますが、余韻も大切な演奏部分だってことを知ってほしいですね。

♬私が中学生の時、曲目は全く覚えてはいませんが、チューバ奏者が大きな音で長く吹きのばしていることに感動し、その楽章が終わったとたん思わず大きな拍手をしてしまいました。スグに私一人が拍手していることに気がつき、拍手を止めましたが恥ずかしかったことを覚えています。でも、オーケストラの方々には感動の拍手であったことは分かっていただけたと勝手に思っています。

♪ブラボー!! 

    演奏が終わり、良い演奏だと「ブラボー」や「ブラーヴォ」の声がかかることがあります。どちらでもそれほど大きな問題では無いかもしれませんが、どのような違いがあるのでしょうか?

実はブラーヴォは男性に使われる「良い」で、女性ソリストにはブラーヴォ(ブラボー)とは云わないのです。

    イタリア語の形容詞は、形容する名詞の性や数に従って語形変化します。bravo のように最後が o で終わるのは、男性単数名詞にかかる時。女性単数なら o ではなく a。男性複数なら i で、女性複数は e。「あなた(がた)は上手い」と言うときも、形容詞を主語に合わせて変化させます。

 ですから、正確には

男性ソリストに対して           

 Bravo! ブラーヴォ!

女性ソリストに対し            

 Brava! ブラーヴァ!

複数の男性奏者に対して(たとえば男性4人の弦楽四重奏団) 

 Bravi! ブラーヴィ!

複数の女性奏者に対して(たとえば女性4人の弦楽四重奏団)  

 Brave! ブラーヴェ!

 余り気にしなくても良いとは思いますが、少なくともイタリアの奏者に対してはエチケットとして覚えておいたほうが良いでしょうね。

♪ 演奏会の魅力 

 最初にCDやYouTubeでしか音楽を聞かないのは損だということです。そんな演奏会に行ったことのない方に、演奏会の魅力について知っていただきたいことがあります。先ずは

① 生音の迫力を味わえる演奏会ではオーケストラの音を、直接感じることが出来ます。

画面や、機械を通した音では伝わらない、音のパワーを、演奏会では感じることが出来るのです。音のパワーとは、振動です。演奏会では、音が空気を振動する感覚を肌で感じながら、音楽を楽しむことができます。これは、演奏会ならではの体験です。

② その時、その場所にいた人だけにしか聞けない音楽があります。

演奏会で演奏されるのは、その時、その場所でしか聞けない音楽です。 どれだけ録音や録画をしても、それは、過去の音楽になってしまい、生き生きとしたリアルな音楽ではなくなってしまいます。 その理由は恐らく、画面を通すと、高揚感や、ホールの匂い、奏者の息づかいなど、その場でしか味わえない感覚が薄くなるからです。その時、その場所にいる人にしか聞けない音楽を聞くことが出来る。これも、演奏会の魅力のひとつです。

③ ホールで音楽を聴く大切さ 「演奏会ホールは生き物だ」

 「演奏会ホールは生き物だ」。これは、指揮者の方が言っていた言葉です。 さらに「お客さんがいないホールで演奏するのと、お客さんがいるホールで演奏するのは、全然違う」と、団員が言っていました。 演奏会ホールで音楽を聞く。これは、オーケストラや、お客さん全員で、生きている音楽を作る、ということを意味しています。 音楽を作る一員になれる。これが、演奏会を聞きに行く最大の魅力です。 機会があれば、是非一度、生のオーケストラや吹奏楽の音を聞きに行ってみてください。とても良い経験になると思います。

♪ 演奏会の持ち物 

 演奏会は、チケットさえあれば入場できるので、特に必要なものはありません。 ただ、チケット以外に持っていけば助かる物があります。 参考になるかと思いますので、演奏会に持って行ったら便利な2つのものをリストアップしました。 

持ち物リスト  1. マスク  2. のど飴 

 ひとつずつ見ていきたいと思います。 マスクを持っていく理由 演奏会では、物音をたててはいけません。無音の状態から音楽が作られるからです。  ただ、「音を出してはいけない」というのは結構プレッシャーがかかります。そして、ホール内は、乾燥しがちなので、咳が出やすくなります。 そんなときに便利なのがマスクです。喉が保湿できるし、咳をするときに、音を小さくしてくれます。

のど飴を持っていく理由 マスクでは押さえきれないほど、喉の調子が悪かったら、のど飴が効果的です。 ただ、ホール内は、基本的には飲食禁止です。さらに、のど飴の包装紙を破るときは、大きな音が出ます。のど飴を食べるときは、周りのお客さんに迷惑にならないように、こっそりと食べてください。

♪ 演奏者が演奏中に気を付けていること 

 皆さんは演奏者が演奏中に何を考え、何をしているのか気になりませんか?  演奏者が演奏中に考えていることいくつかをまとめててみました。

① 休みを数える

 曲の中で長い休みがある時、演奏者は、何も音を出しません。 その時に、客席からは、ただ休んでいるだけのように見えるかもしれませんが、演奏者は、集中力を切らすことなく、曲をしっかり聞いています。休みを数えているのです。 もし、休みを数え間違えると、音の入りを間違えてしまい、めちゃくちゃ目立ちます。そんなことになったら、しばらくの間、立ち直れないくらい凹むこと間違いなしです。そこで、しっかりと休みを数えて、音の入りを間違えないようにしているのです。 休みを数えるのは、演奏中に音を出すのと同じくらい大切なことなんです。

② 同じパートの人と動きを合わせる  

 演奏者は、合奏中、周りの演奏者の動きや、演奏者の様子などを見ています。 その中でも、同じ楽器を弾く演奏者の動きを良く見ています。弓の動きが合っているか、音程は合っているかなど、周りと自分の演奏が合うように、気を付けています。  例えば、どこを弾いているか分からなくなってしまったら、最悪、音を出さずに弓の動きだけ周りと合わせておけば、弾いているように見えます。  意外と、そんなことが、オーケストラで演奏するときの大事なテクニックになるのです。周りの動きをよく見る。これは、とても大事なことです。

③ 指揮者を見る

 指揮者は、オーケストラにとって、大切な存在です。 演奏者に曲で注意する場所をジェスチャーで教えてくれたり、曲の始めの音の出 し方を指示してくれたり、曲の最後の締めくくりの合図を出してくれたり。指揮者がいるおかげで、演奏者は、安心して演奏できるのです。ですので、客席からは、演奏者は、指揮者を見ているのかどうか分からないかもしれませんが、演奏者は指揮者を目の端に捉えています。 指揮者を見ていれば、合奏中の失敗を回避しやすくなるのです。 どうですか?舞台に立てば、音を出さなくても演奏中なのです。観察してみてください。

♪素晴らしい演奏 

 貴方は今までに音楽で感動した経験はありましたか?  録音された同じ演奏を聞いているのにその日の体調によって心に響いたり、何も感じなかった経験はありませんか?

 流暢で綺麗なプロの演奏なのに何か物足りなかった経験はありませんか?また、音程は合ってなくてまとまりのない演奏だったのに何故か感動した経験はありませんか? いったいその差は何でしょうか?

 私は市民バンドの指揮をしていた時に一度だけ感動した演奏を経験したことがあります。 それはメンバーの一人が初めてトロンボーンのトップを任せられることになった時の話です。彼は張り切って練習を続け、調子を上げ本番が近づいてきたある日、突然の交通事故で無くなってしまったときの話です。 彼の葬儀が終わり、数日後に本番前の最後の練習にメンバーは参加します。でもメンバーの気持ちは沈んだままです。演奏曲目は軽快なポップスでノリノリに演奏しなければなりません。でも気分は沈んだままです。私は明るい笑顔を作りメンバーの気持ちを盛り上げようと指揮棒を振ります。曲は明るく楽しい曲ですが聞こえてくるのは悲しみを湛えた辛い悲しい演奏でした。曲の理解としては最低ですが、この時の演奏はメンバー全員が同じ心で演奏し、観客の一人でもある私にメンバーのメッセージが全身に届いた最高の一曲となりました。

 音楽は心のメッセージです。「曲を理解し、演奏技術をそろえる」のが演奏の基本です。でも「心を込めた演奏」、一生懸命な演奏ほど聴衆に届けられるものはないと思っています。

 プロの演奏会でも「チケット代返せ!」と言いたくなるような演奏もありますし、アマチュアで下手な演奏でも「良かった。楽しかった。気持ち良く帰られる。」と思える演奏会もあります。

「上手な演奏」=「素晴らしい演奏」とは少し違うような気がするのですが…… 私が中学生の時に顧問が「君たちは①演奏は上手だが、昨年の演奏曲目を覚えていない学校と②下手くそだけど昨年演奏した曲目を覚えている学校とどちらの演奏が良いと思うか?!」と問われたことがありました。 貴方はどのように思われますか…? 私は聞いていただいている人に何かを伝え、心に残る事ができる演奏が素敵な演奏ではないかと思っています。

 音楽って「瞬間芸術」……消えていく(残らない)芸術……なんです。聴き手の体調・気分によっても聴こえ方は違います。そして会場の雰囲気によっても演奏は変わってきます。私は演奏者の心・感情が伝わってくるのが一番素敵な演奏だと思っています。


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