驚きの演奏家 

♪ 若手音楽家の勘違い 

 「演奏できる人を連れてきて欲しい」と楽譜を渡された打楽器科の学生が、ピアノ奏者とベース奏者を連れてスタジオに出かけました。しかし、そこには立派なエレクトーンが一台置いてあるだけでした。学生は預かった楽譜がエレクトーンの譜面だとは分からずに人集めしたのでした。

 ピアノ奏者はエレクトーンが弾けなかったため、相談の結果ベースマンは座り込んでエレクトーンの足元にあるペダルを手で押し、打楽器科の学生はエレクトーンのスイッチを操作してシンバルなどの音を出したそうです。大人三人がエレクトーンを囲んで演奏する姿はなんとも奇妙な情景だったでしょうね。

♪ 幽霊奏者 

 演奏会本番の話です。

 今ではステージマネージャーがいるためこのようなことは無いと思いますが、演奏会にこんなトラブルがありました。

♪オーケストラの管楽器奏者や打楽器奏者は弦楽器のように出番は多くありません。プログラム曲に合わせて出演します。

 とある演奏会のお話です。出番待ちをしていた人たちで時間つぶしにと始めたトランプゲームが盛り上がり、気がつけば自分が出演すべき曲が鳴り響いているではないですか!!  さあ大変です!!

 どうしたのでしょうか?(指揮者も奏者のイスが空席になっている事を確認。同様に不安・・・曲は続けなければならない・・・)

 彼は慌てて楽器を持ち、舞台袖に・・  

 そして指揮者の指示にあわせて舞台袖から演奏を始めました。

 お客さんは演奏者が居ないのに音だけが聞こえる不思議な演奏会に驚いたと思います。(曲目によっては舞台以外での演奏を指示しているものもありますが、そのような曲ではありませんでした。念のため)

 同様の話をもう一つ(これは私の実体験です。)

♪これは私が指揮をしていた時のことです。演奏会も1部が終わり楽団員は一息入れた後、2部が始まりました。演奏の再開です。そして、指揮を始めると突然、指揮棒が止まりそうになりました。それはフルートの首席奏者が座る席に誰も座っていないのです。私は演奏を途中で止めるわけにもいかず、同じパートのメンバーが代わりに吹いてくれることを祈りつつ演奏を続けました。そして演奏が進みフルートソロが始まったとき、なんと空席であったはずのイスに首席奏者が座っているではないですか! そして何食わぬ顔で演奏しているのです

いつの間に どのようにして入ってきたの????

♪ クラリネット奏者のお話 

 管楽器は息を吹き込んで音を出します。楽器は暖かくなり外気との温度差等の理由で内面に水滴が付き、音が出にくくなるため拭き掃除が必要になります。

 クラリネットは楽器内部に突起があるため掃除棒ではなくクロスに錘を付けて水分を取り除きます。(クラリネット奏者の常識)

 さて、ときに人間は考えられない行動に出ることがあります。本番中のことです。

 クラリネット奏者は演奏中に手入れをしようと楽器を分解し、クロスを通せば良かったのですが、何を思ったのか隣のフルート奏者の掃除棒を拝借しクロスを巻きつけて掃除を始めたから大変。掃除棒が抜けなくなってしまいました。押しても弾いてもビクとも動きません。間もなく自分の出番です。心臓が高鳴り冷や汗が出てくる。掃除棒は動かない。絶体絶命です。

 覚悟を決めたクラリネット奏者はそのまま楽器を組み立て、音が出せない状態の楽器を構えて演奏ポーズを取っていました。  それってあり?

♪ トロンボーン奏者のお話 

 瞬時にスライドを動かして演奏! 音感と運動神経が要求される体育会系の楽器トロンボーン! こんなハプニングが・・・

 演奏もクライマックスにさしかかりトロンボーンも大活躍! と、その時でした。トロンボーンの前に座っていたクラリネット奏者の横に何やら飛行物体が? そうですトロンボーンのスライドが外れて飛んできたのでした。さあどうなったのでしょうか? クラリネット奏者はとっさにスライドを掴み、何食わぬ顔でトロンボーン奏者にスライドを渡しました。そして演奏は無事終了?することができました。

 演奏が上手くいったのはクラリネット奏者の運動神経抜群だったことが最大の理由でした?!

♪ テューバ奏者のお話 

 管楽器で最低音を担当するテューバ。オーケストラでの出番は少ないのですが、そんなテューバ奏者の寒い冬での演奏会エピソードです。

 外は寒くてもホールの中は快適。しかも舞台は照明があるので客席よりも暖かいのです。その上テューバ奏者の定位置はひな壇の一番上で照明に近い・・・

ここからトラブルを二つご紹介。

テューバの演奏機会は少ないため楽器を前に置いて待っていると、楽器の高さが腕を乗せるのに良い高さであるため、腕を置いて出番を待っていると照明の温かさも手伝ってウトウトし始め、気が付けば自分の出番が始まっているではないですか、慌てて楽器を構えて演奏したそうです、お客さんからは滑稽に見えたでしょうね。

同じ状況で違う事態が発生です。

 昨夜のお酒が残っていて今夜はすっごい二日酔いのテューバ奏者。

  温かい舞台の上で出番を待っていると、ついにムカムカが最高潮になりトイレに行きたくなりましたが、本番中です!目の前には大きな口を開けたテューバがあります。さて、テューバ奏者はどうしたのでしょうか。そうです!テューバ奏者は我慢できずに楽器の中へ・・・・

その後はどんな演奏になったのでしょうか? 聞きたくないです・・・・

♪ 打楽器奏者のお話 

 有名な音楽家でも若い時に失敗はあります。やっぱり人間ですから・・・

 地方大学のオーケストラでのできごとです。「家路」で有名なドボルザークの新世界交響曲を演奏することになり都市圏の音楽大学の学生に出演協力要請がありました。打楽器奏者1名も参加しました。打楽器奏者の担当した楽器はシンバルです。御存知かもしれませんがこの曲のシンバルは最終楽章で一発あるだけです。リハーサルに臨むと手書きの楽譜で、しかもどこかのパートの旋律が書いてあってそれからシャーンと一発ってな楽譜だったそうです。しかし有名な曲ですし、本番は何とかなるだろうと臨み、いよいよ最終楽章に入りボチボチ出番だなとシンバルを持って立ち上がったものの「アレ? エ!」っと鳴らす場所が分からずシンバルを構えただけでそのまま着席してしまいました。(音楽家としては最悪の事態!)演奏会終了後、その大学から「遠いところ来ていただきありがとうございました」と出演料を渡されたと云うことです。(本当にギャラ貰って帰ったのでしょうか?)

♪ シンバルは楽譜を吹き飛ばす 

 これは、とあるプロのオーケストラであったお話です。打楽器に新人の女性が加わりました。オープニングの曲は、「カルメン」序曲。くだんの新人は、シンバルの担当です。演奏が始まりました。シンバルの大活躍する曲です。
「ちゃんちゃかちゃかちゃか ちゃんちゃかちゃかちゃか ちゃんちゃかちゃかちゃかちゃーん」

 ご存じのように、シンバルは最初のフレーズの最後の「ちゃーん」のところに2発入ります。思い切りよく、「ちゃーん、ちゃーん」と叩きました。するとその風圧で、彼女の楽譜は吹き飛ばされ、前の方へ飛んでいってしまいました。さぁ大変。新人さんは頭が真っ白になって、「とにかく叩かなきゃ」・・・そして・・・

 彼女は、一拍ずつ最後まで、全部の拍にシンバルを入れてしまっんだそうです(^ ^;;さぞにぎやかなカルメンになったことでしょうね(^ ^;;

♪ 驚異のヴァイオリンソロ 

 ヴァイオリンは子どもサイズから大人サイズまで成長に応じて大きさが変わります。大阪府枚方市出身で現在はアメリカを拠点に活躍している五嶋みどり(1971.10.25「昭和46年」生まれ)。彼女は1986年にタングルウッド音楽祭で、レナード・バーンスタインの指揮で、「セレナード」第5楽章を演奏中にヴァイオリンのE線が2度も切れるというアクシデントに見舞われました。

 当時みどりは3/4サイズのヴァイオリンを使用していましたが、このトラブルによりコンサートマスターの4/4サイズのストラディヴァリウスに持ち替えて演奏を続けるも、再びE線が切れてしまいました。2度目は副コンサートマスターのガダニーニを借りて、演奏を終えました。これにはバーンスタインも彼女の前にかしずき、驚嘆と尊敬の意を表し、翌日のニューヨーク・タイムズ紙には、「14歳の少女、タングルウッドをヴァイオリン3挺で征服」の見出しが一面トップに躍りました。

 また、この時の様子は、「タングルウッドの奇跡」として、アメリカの小学校の教科書にも掲載されました

♪ ヴァイオリンの魔力:パガニーニ      

 ニコロ・パガニーニ(1782年~1840年)がヴァイオリンを弾き始めたのは5歳の頃からで13歳になると学ぶべきものがなくなったといわれ、その頃から自作の練習曲で練習していました。それら練習曲はヴァイオリン演奏の新技法、特殊技法を駆使したものと言われています。

♬ 今日までのヴァイオリン音楽の発展のために最も貢献した人物の一人です。それはヴァイオリン曲の創作、演奏という双方の側面から言えることですが、超絶的な演奏技法を駆使した曲の創作ならびにそれを十二分に発揮することできるテクニックによって、多くの人々の心を捉えたのでした。そこで展開される音楽には、単なる心地よさを追求したものとは違って、鬼気迫る超感覚的な作用で魔法にかかったように聴衆を惹きつけてしまう不思議な魅力(魔力?)があったようです。

♬ 彼の地元で演奏会を鑑賞した報道社は、「パガニーニの演奏を聴いたナポリ市民の熱狂ぶりは、まったく狂気の沙汰であった」と述べています。ところで彼はそれらの音楽を生み出すために、可能な限りの独自の運弓法(弓を操作する方法)を編み出したのでした。例えば彼がスタッカートを奏する時の様子についてある資料には次のような記述があります。「弓はヴァイオリンの弦の上で、まるで鞭のようにしなやかにさらさらと動いているようであった。また彼は信じられないほどの速さで数々のフレーズや音階をすばらしく細かいスタッカートで弾いた。一つ一つの音は彼の指からまるで小粒の真珠がこぼれ落ちるように飛び出してくるのであった。この運弓の多様性はまさに驚くべきものであった。プレスティッシモにおいてさえ、最も短い音でも一つ一つがはっきり区切られ、どんな時でもテンポに狂いを生ずるようなことはなかった(小説パガニーニ:音楽之友社より)」。これはほんの一例にしか過ぎませんが、数多く残っている彼の演奏の“魔力”にまつわる伝説は今も語り継がれています。

♪ ヴァイオリンと弓はセット売り? 

 ストラディバリウスという名前を聞いたことはないでしょうか。イタリアのストラディバリの工房で1600年後半頃から作られた弦楽器です。

 日本では高嶋ちさ子が2億円で買ったり、法人が所有のものをこれと見込んだ演奏家に貸し出したりしています。古くは辻久子が自宅を売却して購入した話がありましたが、後日ストラディバリウスではなかったことが判明したそうです。(でも、本人は音色等が気に入り納得されていたとか。)

 一番高い値段がついたのは12億円とも言われています。そんな話があるから、またクラシック音楽はお高くとまってる、などと言われてしまうのでしょうか。

 実際お高いのだが……。それはそうと、一番驚いたのは「そのウン億円に弓はついてない」ということです。

 ヴァイオリンを弾くんだから、弓がいるでしょうよ!?と思うのは全く素人考えであるらしいのです。弓は別売で、セット価格でお得になったりはしないらしいのです。

 弓は弓でまた別の職人が作っていたりして、数百万から一千万円を超えるものもあります。「弓だけ」の値段が、です。下世話な話ですみません。

♪ ピアニストはオーケストラ団員ではない? 

 オーケストラといえば、ヴァイオリン、ビオラ、チェロ、コントラバス、フルート、オーボエ、クラリネット、ファゴット、ホルン、トランペット、トロンボーン、チューバ、打楽器いろいろ、ここまでがオーケストラの主な楽器奏者。

 ピアノ協奏曲などを演奏する際にオーケストラにいるピアニストは、ゲストなのです。オーケストラを運営する法人に属した団員ではないのだそうです。

♪ 音楽家の定年 

 音楽は年齢に関係なく、小さな子供から高齢者まで一緒に楽しむことができます。音楽はスポーツと違い体力や体格で勝負することは少なく、性差も関係ありません。逆に年齢を重ねる方が人生経験を積みより良い演奏(合奏)が楽しめるのです。素敵な世界だと思っています。

 さて、プロの音楽家に定年はあるのでしょうか? N響も、法人としてはNHK本体とは別組織ですし音楽家の雇用契約は通常のNHK職員とはかなり異なりますが、定年はあります。 

 また、日本のオーケストラの一部もそうですが、海外のオーケストラでは年間契約型になっているところがあります。つまり、一年~数年の契約で、必要なら更新するという方法です。この場合は「定年」に相当するものは本来ありませんので高齢のメンバーがいても不思議ではないですが、一定の年齢以降は契約を更新しないなどの原則になっているケースもあり、それを「定年」と通称することもあるようです。

 ただ、年齢による雇用差別を禁じる傾向が世界的に強まっており、少なくとも形式上は年齢ではなく技術的な限界などを理由にしているケースもあるでしょう。

  いずれにせよ期間契約の場合でも、特に問題がなければ「定年」まで契約が更新され続ける場合と、契約更新のたびにオーディション同様の審査を行い技術の向上がなければ厳しく判断する場合があります。

 いずれの場合であっても、定年などで退職した団員をエキストラあるいは嘱託としてアルバイト的に出演させるケースは日本・海外いずれでもあります。「定年」があるはずのオーケストラで高齢のメンバーを見かける場合には、このケースが考えられます。一般の企業と同じです。  

 また、ソロコンサートマスターなどは指揮者と同じで、一般の団員とは異なった個別の契約になっている場合があります。これだと年齢は関係ありません。


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