♪「 」♪
通称4分33秒。と云うジョン・ケージが1952年に作曲した曲があります。『正式名称は「 」(空白)』
この曲は、音楽は音を鳴らすものという常識を覆す、「無音の」音楽なのです。楽譜には「第1楽章休み、第2楽章休み、第3楽章休み」と書かれているだけなんです。
演奏者は舞台に出て、楽章の区切りを示すこと以外は楽器とともに何もせずに過ごし、一定の時間が経過したら退場する。 ただそれだけなんです。
楽曲は、3つの楽章から成っていて、それぞれの楽章の所要時間は、演奏者の自由です。初演は1952年8月。米国ニューヨーク州のウッドストックでピアニスト、デイヴィッド・チューダーによって行われました。このとき、チューダーは、第1楽章を33秒、第2楽章を2分40秒、第3楽章を1分20秒で演奏し、その合計時間4分33秒だったので、この曲の通称名となっています。
この曲は、いわゆる「無」を聴くものというよりも、演奏会場内外のさまざまな雑音、すなわち、鳥の声、木々の揺れる音、会場のざわめきなどを聴くものとされています。なお、チューダーによる初演後も稀にコンサートで「演奏」されることがあり、数種類の(無音の)CDも存在するようです。
楽器の指定もないので誰でも演奏可能です。お金が無い時に小遣い稼ぎにいかがですか?
ジョン・ケージは音のない世界の音を聞くためにハーバード大学の無音室に行ったそうです。そこで聴いたのが「神経系が働いている音」と「血液が流れている音」を聞いたことから作品のヒントを得たようです。ところでこの『無音』にも実は著作権が発生するのではないかと言う疑惑がTwitterで沸き起こりました。つまり、何もしゃべらず4分33秒過ごすだけで著作権違反となるのではないかということなのです。
実際には家の中で曲を口ずさんでも著作権違反とならないのと同じで、直ちに著作権違反となる可能性は極めて少ないのですが、理論上、有料のコンサートでJASRACの許可なしにこの無音曲を演奏したら著作権違反となる可能性ありです。
♪終わらない? 終われない?♪
ヨハン・シュトラウス2世が作曲した管弦楽曲。「常動曲」(『無窮動』(むきゅうどう)ともいわれている作品。)
常動曲という名前の通り、何回でも最初から繰り返し演奏できるように作られた楽曲です。当時普及し始めていた機械に着想を得たと言われていて、スコアの最後には「あとはご自由に」と書かれており、フェイドアウトする演奏や最初から繰り返す演奏、指揮者が「あとはこの繰り返しです」と聴衆に語りかけて終わるという演奏などがありますが、現在では聴衆に語りかけて終わる演奏のほうが一般的です
「音楽の冗談」という副題を持っていて、1861年4月4日にウィーンで初演されましたが、当時の評判はあまり芳しくなかったと云います。しかし現在はコンサートにおける「小粋なアンコール」として親しまれ、有名になっています。
♪蚊を取った♪
これ!タイトルなんです!?
フランスの作曲家エリック・サティーの作品で演奏者はヴァイオリン奏者とシンバル奏者の二人だけです。
曲はこうです。ヴァイオリン奏者は一つの音を弾き始めます……大きく……小さく……トギレトギレ……突然ぴたりと音が止む……ヴァイオリン奏者はそのままの姿で動かない……そこへシンバル奏者が忍び足で前に出てきて……呼 吸を止めて……バシャ!と一発。 これで終わりです。
この奇妙な曲はヴァイオリン奏者が蚊を飛ぶのを表し、突然どこかにとまったのを叩いて殺したという曲です。
音楽の本来の姿は、音楽によって何かを表すことですから、これなどは単純明解な音楽といえるのではないでしょうか。 一度聞いてみたいですね。
♪体力勝負の曲♪
同じくエリック・サティーの作品で演奏者も聴衆も体力が必要な曲があります。
それは「ヴェクサシオン」というピアノ曲で、楽譜には全部で133の音符しかないので1分ほどで弾き終わってしまします。しかし、奏者は再び最初に戻って同じ演奏を繰り返します。なんと……840回……即ち840分……即ち14時間……
1963年9月にニューヨークで初演され、満員で開始されましたが、最後まで残ったのは6人だったそうです。 ひょっとしたら音楽鑑賞は命がけ?!
♪膀胱結石切開手術の図♪
医学書のタイトルではありません。バッハが生まれる30年ほど前にフランスに生まれたマラン・マレ(1656年生まれ)という人の作品タイトルです。
この作品は、「ヴィオール曲集第5巻」(1725刊)の中の1曲で、膀胱結石の手術のこの上ない苦痛を描いたものです。当時の手術は衛生的に問題があり多くの人が手術によって亡くなっています。しかも麻酔もなかった。そんな命に関わる手術を音楽にしてしまう、ましてやこの曲では手術は成功するという内容は、手術失敗者多数の当時おいてはけっこう大胆な行為です。
とにかく、絶望的な語りとパニック、それを煽るような暗く悲しげな音楽が、命を賭けた極限の状況に置かれている患者の心情を見事に描いているようです。 手術の不安に始まり~開腹~石が取り出され~出血~手術終了。そのあとはいきなり快方。すっきりハッピー! はっきり言って笑ってしまいそうになる曲だそうです。
♪演奏者が居なくなる?!♪
ハイドンの交響曲第45番 「告別」 第4楽章は演奏者が徐々に退場していくように書かれています。
この楽曲は、エステルハージ家の夏の離宮エステルハーザでの滞在期間が予想以上に長びいたため、たいていの楽団員がアイゼンシュタットの妻の元に帰りたがっていました。このためハイドンは、終楽章で巧みにエステルハージ侯に楽団員の帰宅を認めるように訴えています。
終楽章後半の「アダージョ」で、演奏者は1人ずつ演奏をやめ、ロウソクの火を吹き消して交互に立ち去って行き、最後に左手に、2人の弱音器をつけたヴァイオリン奏者(ハイドン自身と、コンサートマスターのアロイス・ルイジ・トマジーニ)のみが取り残されます。
エステルハージ侯は、明らかにメッセージを汲み取り、初演の翌日に宮廷はアイゼンシュタットに戻されたという逸話が残っています。 この楽曲は終楽章だけでなく、全体に次第に激しい感じから寂しい感じになるように絶妙に設計されていているのが聴きどころです。
この楽章で数人ずつ演奏者が音を立てずに退場していくのは実際のコンサートでしか見られません。どうぞ、コンサートでお楽しみください。
♪指揮者が倒れる♪
ドイツの作曲家マウリツィオ・カーゲル(1931.12.24~2008.9.18)という作曲家が、自分の50歳の記念に作曲した20分ほどの曲「フィナーレ」という曲があります。
演奏終了5分前に指揮者が倒れるのです。楽譜には指揮者への指示が書かれています。
楽譜には「倒れる」だけでなく、「突然の痙攣に襲われたように硬直し、肩に力を入れ、指揮棒を持ったまま右腕は上にして、左手でネクタイを緩め、心臓のあたりを左手で軽く抑える。」「やがて、譜面台をつかみ後ろの床(聴衆側)に倒れる。」「指揮者が倒れた後、演奏者は演奏しながら立ち上がって覗き込む」などと細かな細かい指示があります。
指揮者は表現者として役者にならなくてはならない一曲なのです。
指揮者が倒れた後、コンサートマスターが代わりに指揮をし、曲を終われせた後照明も落とし、楽曲の演奏は終了します。 何も知らない観客はパニックになってしまいそうな曲ですが、演奏が続けられることで、多少の動揺を感じながらも最後まで座っていられるのかもしれませんね。
♪ティンパニーに頭を突っ込む♪
同じくカーゲルの「ティンパニーとオーケストラのための協奏曲」という楽曲です。
この楽曲の終結部において、ティンパニーの中に奏者が飛び込むといった指示があります。
これは、ある1台のティンパニーの鼓面(ヘッド)を外して替わりに紙を張り、そのティンパニーは置くだけで曲中は演奏に使用せず、曲の最後に奏者が飛び込む(打面替わりに張った紙を破って上半身をケトルに突っ込む)、というものであり、その際の音量の指示は最大最強の「ffff」。全力でやるように指示が書かれています。
♪ メトロノームが演奏?! ♪
ハンガリーの作曲家、リゲティ・ジェルジュが1962年に作曲した「100台のメトロノームのためのポエム・サンフォニック」いう楽曲があります。 スコアには音符や演奏方法ではなく操作方法が書かれています。 この作品には2人の「演奏者」が必要ですが、実際には聴衆の存在しない場での作業となります。100台のメトロノームの演奏台の上に設置した後、全てのメトロノームをバラバラの速度に設定し、可能な限り同時にメトロノームを最大振幅で開始させる。この時点で演奏者は演奏台から去る。代わりに聴衆は入場が認められ、全てのメトロノームがグシャグシャと鳴っている様相を聴取する。弱まったメトロノームが次々に停止を始めると、打音の周期性は次第に明確になり、それぞれメトロノームの音が認識可能になります。通常、最後に一つだけ残ったメトロノームが数回音を鳴らして停止し、演奏が終了です。 メトロノームが主役の音楽作品としては、他に一柳慧の「電気メトロノームのための音楽」などがあります。
♪舞台で卓球?♪
アメリカの現代音楽作曲家アンディ・アキホーが卓球のリズミカルな音に着想を得て書いた「ピンポン協奏曲」という楽曲があります。
曲が始まるというのに、なぜか舞台には卓球台とカゴを持った男女が。一体何を…。
なんと、カゴに入った大量の球を卓球台に叩きつけました!「ドーン!!」という大きな音とともに、演奏スタートです。最初からなにがなんだか分かりません! お次は卓球台の上にビンを置き、棒で叩き始めました。 そんなことを思っていると、ついに本格的な卓球が始まってしまいました!軽やかなラリーの音で、曲を奏でています。 最後は大太鼓に球をスマッシュ!思いっきり打たないと音が出ないので、演奏者も大変そうです。
この曲は、交響楽団とプロの卓球選手が演奏する難易度の高い楽曲。 最初はびっくりしてしまいますが、見慣れるとその迫真さに夢中になってしまいそうです。いつか生で演奏を観てみたいですね。
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